✍️ 本記事は、アストラサナ・ジャパンのKOL(Key Opinion Leader)である 正高佑志 医師 の執筆に基づいて作成されています。
CBDや大麻医療に関する最新の科学的エビデンスをわかりやすくお届けすることを目的としています。
なお、本記事の内容は特定の効果効能を保証するものではなく、診断・治療・予防を目的としたものではありません。
まぶたが自分の意思と無関係に閉じてしまう眼瞼けいれんは、標準治療であるボツリヌス毒素の注射でも十分な効果が得られない患者が一定数います。近年、この疾患に対して医療大麻やCBD(カンナビジオール)を併用する研究が海外で行われました。本記事では、現在報告されている3件の研究を対象人数・投与量・統計結果まで整理し、現時点でどこまで言えるのかを解説します。
眼瞼けいれんは、まばたきを制御する神経回路の障害で起こる
眼瞼けいれんとは、主に眼輪筋の過度な収縮によって、意思と無関係にまぶたが閉じてしまう疾患です。他の神経学的・眼科学的な異常が原因でないものを本態性眼瞼けいれんと呼びます。
「まぶたがピクピクする」という訴えの中には、疲労による一時的な眼瞼ミオキミアと、神経系の異常によって生じる眼瞼けいれんが混在します。後者はまばたきを制御する脳の神経回路に障害が起こることで、まぶたの開閉がコントロールできなくなる状態です。
- 主な症状:まぶたの開閉障害、まぶしさ、目の乾燥、不快感、痛み
- 随伴症状:抑うつ、不安、不眠などの精神症状を伴うことがある
- 好発年齢:40歳以降の発症が大半(日本神経眼科学会 眼瞼痙攣診療ガイドライン2011年度版)
- 男女比:1:2〜2.5で女性に多い(同ガイドライン)
生命に関わる疾患ではありませんが、まぶしさや開瞼困難によって読書・運転・就労が制限され、生活の質を大きく損なうことがあります。
標準治療はボツリヌス毒素の局所注射で、根治療法はない
眼瞼けいれんの第一選択治療は、ボツリヌスA型毒素を目の周囲の筋肉に注射し、まぶたを閉じる筋の働きを弱める方法です。日本では1997年4月に眼瞼けいれんの治療薬として適応が認可されています。
効果は数か月で減弱するため、反復投与が必要です。また、注射で十分な改善が得られない患者も存在します。現時点で根治療法は確立していません。この治療上の空白が、カンナビノイドを補助療法として検討する研究の背景になっています。

医療大麻・CBDの報告は3件。いずれも小規模で結論は出ていない
眼瞼けいれんに対するカンナビノイドの臨床報告は、2017年の米国の観察研究、2022年のイスラエルのパイロット試験、2023年の米国のランダム化試験の3件です。いずれも対象が10名前後の小規模研究です。
① 米国・ミネソタ大学(2017年):後ろ向きカルテレビューで4名中3名が改善を自覚
- デザイン:後ろ向きカルテレビュー(2015年9月〜2016年5月)
- 対象:医療大麻の使用許可を受けた本態性眼瞼けいれん患者10名のうち、組入基準を満たした5名。うち4名は使用を中止した
- 結果:4名中3名(75%)が症状の改善を自覚したと報告
- 著者らの結論:補助療法としての可能性は不明であり、さらなる研究が必要
② イスラエル(2022年):大麻オイル点眼のパイロット試験でけいれん時間が短縮
- デザイン:前向き・ランダム化・二重盲検・プラセボ対照のパイロット試験
- 対象:本態性眼瞼けいれん患者6名(治療群3名/対照群3名)
- 投与:大麻オイルの点眼。最初の6週間は治療群のみ実薬、対照群はプラセボ。後半6週間は両群とも実薬
- 結果(前半6週):けいれん持続時間の平均が治療群4.29分 対 プラセボ群73.9分(P < 0.01)
- 結果(後半6週):治療群1.77分 対 対照群8.96分(P < 0.01)。けいれん頻度は61回 対 94回(P = 0.05)
③ 米国・サンフランシスコ(2023年):CBD 200mg/日の併用で眼瞼閉鎖持続時間が有意に短縮
- デザイン:前向き・ランダム化・二重盲検・プラセボ対照クロスオーバー試験(6か月)
- 対象:ボツリヌス毒素治療中の患者12名(女性8名・男性4名、年齢中央値71.5歳)
- 投与:CBD経口液剤 Epidiolex 200mg/日(100mg 1日2回)をボツリヌス毒素と併用
- 結果:眼瞼閉鎖持続時間(※まぶたの開閉にかかる時間)はベースラインと比較し-15.8%の短縮が認められ統計学的に有意であった(P = 0.001)。一方、臨床症状の尺度であるJankovic Rating Scale の頻度・重症度はいずれも中央値0.5点の低下にとどまり、統計的に有意な差は認められなかった
著者らはパイロット規模であることを理由に、より大規模な研究の必要性を述べています。
3研究は対象・剤形・結果がそろっていない
3件の研究は、投与された成分も投与経路も評価指標も異なります。同じ結論の積み上げとして読むことはできません。

| 研究 | 年・国 | デザイン・対象 | 投与 | 主な結果 | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| Radke et al. | 2017・米国 | 後ろ向き観察/5名(評価4名) | 医療大麻(州認可製品) | 4名中3名が改善を自覚。対照なし | PubMed |
| Zloto et al. | 2022・イスラエル | RCTパイロット/6名(3対3) | 大麻オイル点眼 | けいれん持続時間 4.29分 対 73.9分(P < 0.01) | DOI |
| Silkiss et al. | 2023・米国 | RCTクロスオーバー/12名 | CBD 200mg/日 経口(Epidiolex) | 眼瞼閉鎖持続時間 -15.8%(P = 0.001)。Jankovic Rating Scale に有意差なし | DOI |
現時点の位置づけは「補助療法としての可能性が検討されている段階」
眼瞼けいれんに対する医療大麻・CBDの有効性は、現時点で確立していません。報告されているのは対象10名前後の初期研究に限られ、経口CBDを用いた唯一のランダム化試験では主要評価スコアに有意差が出ていません。
一方で、点眼を用いたイスラエルの試験ではけいれん持続時間に大きな差が報告されており、投与経路や製剤の違いを含めた検証が今後の課題として残っています。日本でも研究が進めば、ボツリヌス毒素で十分な効果が得られない患者の選択肢を広げる可能性があります。
眼科領域におけるカンナビノイド研究については、網膜色素変性症に医療大麻は効果がある?症状緩和の可能性を最新の研究から解説でも扱っています。神経疾患の行動症状に対するカンナビノイド医薬品の研究は、アルツハイマー病の興奮症状とナビロン(反応予測)をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
眼瞼けいれんはCBDで治りますか?
現時点で、CBDが眼瞼けいれんを治すという結果は得られていません。経口CBDを用いた2023年のランダム化試験では、重症度スコアに統計的な有意差が認められませんでした。
ボツリヌス毒素(ボトックス)の代わりに使えますか?
3件の研究はいずれもボツリヌス毒素治療を継続したうえでの併用を検討したものです。置き換えを評価した研究は確認できていません。
研究ではどのくらいの量が使われましたか?
2023年の米国の試験ではCBD 200mg/日(100mg 1日2回)の経口液剤が用いられました。2022年のイスラエルの試験は点眼で、用量は忍容性に応じて患者ごとに調整されています。2017年の観察研究は市販の医療大麻製品であり、統一された用量はありません。
大麻オイルの目薬は日本で入手できますか?
イスラエルの試験で用いられたのは研究用に調製された製剤です。同一の製品が日本で医薬品として流通している事実は確認できていません。
日本でCBDを使うことは認められていますか?
この点は、本記事で扱う研究の有効性そのものとは別に、一般的な規制情報として整理します。日本では、CBDを含む製品であっても、製品中のΔ9-THCが法令上の残留限度値を超える場合は規制対象となります。国内で使用する際は、残留限度値などの基準に適合した製品であることを確認する必要があります。また、疾患の治療・予防を目的とした医薬品としての使用は、承認された医薬品によって行われます。規制や承認状況は変更されることがあるため、最新情報を確認してください。
出典一覧
- Radke PM, et al. Medical Cannabis, a Beneficial High in Treatment of Blepharospasm? An Early Observation. Neuroophthalmology. 2017;41(5):253-258. doi:10.1080/01658107.2017.1318150(PMID: 29339959)
- Zloto O, et al. Medical cannabis oil for benign essential blepharospasm: a prospective, randomized controlled pilot study. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2022;260:1707-1712. doi:10.1007/s00417-021-05533-1
- Silkiss RZ, et al. Cannabidiol as an Adjunct to Botulinum Toxin in Blepharospasm – A Randomized Pilot Study. Transl Vis Sci Technol. 2023;12(8):17. doi:10.1167/tvst.12.8.17(PMID: 37606606)
- 日本神経眼科学会. 眼瞼痙攣診療ガイドライン(2011年度版). 日本眼科学会雑誌. 2011;115(7).

正高佑志 医師
アストラサナ・ジャパン KOL(Key Opinion Leader)
1985年生まれ。医師。熊本大学医学部医学科卒。一般社団法人GREEN ZONE JAPAN代表理事&臨床カンナビノイド学会副理事長として、大麻草の安全性や有用性に関する啓発活動に従事。著書『お医者さんがする大麻とCBDの話』など。
専門分野:カンナビノイド医療、精神医学、依存症治療


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