✍️ 本記事は、獣医行動学の観点から茂木千恵(日本アニマルCBD協会 学術顧問)が監修しました。本記事は学術研究を紹介するものであり、CBD製品による疾病の治療・予防効果を保証または推奨するものではありません。使用については、かかりつけの獣医師にご相談ください。
猫の攻撃行動にCBDは有効か:まだ確立した治療ではない
猫の飼い主への攻撃行動にCBDを用いた臨床研究が、2026年にタイから報告されました。CBD群では攻撃行動スコアが低下し、治療後には対照群より低いスコアが示されています。
ただし、臨床行動学では「攻撃しなくなった」だけで改善とは判断しません。不安や不快感が軽減したのか、眠気などで行動の表出が減ったのかを分けて考える必要があります。
CBD群の半数以上に眠気が報告されています。現時点では「有効性の可能性を示す初期報告」であり、確立した治療ではありません。
飼い主への攻撃行動とは:同じ「咬む」でも意味は一つではない
「飼い主への攻撃行動(owner-directed aggression)」とは、同居する人に威嚇、叩く、引っかく、咬みつくなどの行動が向けられる状態を表す言葉で、一つの病気や診断名ではありません。
同じ咬みつきでも、接触への不快感、恐怖、遊び・捕食様行動、資源、転嫁など背景は異なり、痛みや身体疾患が関係することもあります。
飼い主には「突然噛まれた」と感じられても、その前に体が硬くなる、顔をそらす、耳や尾が動く、離れようとするといったサインが出る場合があります。治療では、猫が咬むところまで追い込まれないよう、こうした拒否サインを読むことが重要です。
2026年タイの研究:100頭を5群にランダムに分けて、解析は67頭

Supantaらは、飼い主への攻撃行動を示す猫100頭を、対照、CBD 1 mg/kg/日、CBD 2 mg/kg/日、フルオキセチン、併用の5群にランダムに群分けしました。
治療はまず4週間行われ、攻撃行動が残った猫では最大8週間まで継続されました。重要なのは、薬剤を投与しただけの試験ではなく、すべての群の飼い主が獣医師から猫の行動に関する教育と行動修正の助言を受けていたことです。
100頭が登録されましたが、投薬の不規則や行動報告の欠落などにより、最終解析は67頭でした。
研究の主要数値
| 群 | 解析頭数 | 攻撃スコア中央値(治療前→治療後) |
|---|---|---|
| 対照群 | 14 | 2.88→2.60 |
| CBD 1 mg/kg/日 | 14 | 2.66→1.06 |
| CBD 2 mg/kg/日 | 13 | 2.38→1.00 |
| フルオキセチン | 12 | 2.40→1.17 |
| CBD+フルオキセチン | 14 | 3.04→0.93 |
CBD群、フルオキセチン群、併用群では治療後の攻撃スコアが対照群より有意に低くなりました。一方、対照群でも2.88から2.60へ有意に低下しています。
著者らは、対照群の改善に行動教育・行動修正が影響した可能性を挙げています。したがって、この研究は「CBDだけの効果」としては読めません。
「フルオキセチンと同等」と言えるのか
CBD群とフルオキセチン群の治療後スコアには統計学的な有意差が認められず、著者らはCBD 1 mg/kg/日の効果をフルオキセチンと「同等(comparable)」と表現しています。
ただし、「有意差がなかった」ことと、「両者の効果が同等であることが証明された」ことは同じではありません。この研究は同等性試験や非劣性試験として設計されたものではないため、「CBDはフルオキセチンと同じ効果がある」と一般化することはできません。
CBD群でも眠気が報告された
CBD 1 mg/kg/日群では57.1%、2 mg/kg/日群では61.5%に眠気が報告されました。フルオキセチン群では83.3%、併用群では100%でした。
著者らも、治療開始後早期の行動変化について、一過性の行動抑制や軽度の鎮静が影響した可能性に言及しています。
この研究の限界:攻撃が減ることと情動の改善は同じではない

この研究には、100頭中33頭が最終解析から外れていること、飼い主のみを盲検化した単盲検であること、CBDは油剤、他群は錠剤であり、観察者でもある飼い主が評価前に治療内容を推測できた可能性があること、主要評価が飼い主による行動スコアであることなどの限界があります。
臨床行動学的に特に重要なのは、「攻撃行動の減少」と「猫の情動状態の改善」を分けて考えることです。
たとえば、咬まなくなっても、一日中寝る、遊ばない、人に近づかない、探索しないのであれば、単純に「良くなった」とは判断できません。
一方、自分から人へ近づく、嫌な時には離れる、普段どおり遊ぶ・食べる・探索するといった変化を伴えば、状態そのものが改善している可能性があります。評価したいのは、「咬まなくなったか」だけでなく「咬む必要のない状態になったか」です。
CBDの位置づけ:目標は猫を「おとなしくする」ことではない

猫の攻撃行動では、まず疼痛や身体疾患を除外し、どの場面で何をきっかけに攻撃が起こるかを整理します。そのうえで、逃げられる場所を作る、接触を強要しない、過度な刺激を避ける、遊び方を見直す、生活の予測可能性を高めるなどの環境調整・行動修正を行います。
CBDを検討する場合も、この過程を飛ばして単独で使用するものではありません。
目標は猫を「おとなしくする」ことではなく、恐怖、不安、不快感や過剰な反応性を軽減し、猫が安全に選択できる状態をつくることです。
CBD使用後も、攻撃回数だけでなく、活動性、食欲、遊び、探索、休息、人への自発的な接近、眠気を合わせて評価します。
よくある質問(FAQ)
猫の飼い主への攻撃行動にCBDは効きますか?
現時点で「効く」と一般化できる段階ではありません。2026年の研究ではCBD群で攻撃スコアが低下しましたが、最終解析は67頭で、全群に行動修正が行われ、CBD群でも眠気が多く報告されています。有効性の可能性を示す初期報告として捉えるのが適切です。
CBDで猫が眠くなることはありますか?ずっと寝てしまうのでしょうか?
眠気がみられることはありますが、CBDを飲むと猫がずっと寝てばかりになる、ということではありません。今回の研究ではCBD群の約6割に一時的な眠気が報告されましたが、「一日中寝ていた」という報告ではありません。また、健康猫にCBD 4 mg/kg/日を26週間与えた研究でも、慢性的な眠気が代表的な有害反応として示されたわけではありません(Coltherd et al., 2024)。普段どおり食べる、遊ぶ、動くといった行動が保たれているかを確認し、明らかに寝ている時間が増えた場合は獣医師に相談してください。
まず家庭で何を記録すればよいですか?
「何が起きた→猫が何をした→その後どうなった」を記録してください。撫でた、抱いた、音がしたなどの直前の状況と、耳・尾・姿勢、威嚇、咬みつきなどの実際の行動を記録すると、攻撃の背景を整理しやすくなります。
日本で猫にCBDを使うことは認められていますか?
CBD製品が国内で流通できることと、猫の攻撃行動を治療する動物用医薬品として承認されていることは別です。今回の用量は研究目的で設定されたもので、日本で猫の攻撃行動に対する治療用量として承認されたものではありません。使用を検討する場合は、製品情報と体調、併用薬について獣医師に相談してください。
まとめ
2026年のSupantaらの研究は、猫の飼い主への攻撃行動にCBDを用いた臨床研究として興味深い報告です。一方で、脱落、単盲検、飼い主による評価、全群への行動修正、CBD群での眠気などを考慮する必要があります。
臨床行動学では、「攻撃しなくなった」ことと「猫が安心して暮らせるようになった」ことを同じものとは考えません。
猫が自発的に動き、食べ、遊び、休息し、人との距離を自分で選べているか。その結果として咬む必要が減っているかを見ることが大切です。
現時点でCBDは確立した治療ではなく、今後の再現研究が必要です。
参考文献
- Supanta J, Boonhoh W, Hayakijkosol O, Wongtawan T. Owner-Directed Feline Aggression in Thailand: Characteristics, Associated Factors, and a Clinical Comparison of Treatments. Life (Basel). 2026;16(2):307. doi:10.3390/life16020307
- Amat M, Manteca X. Common feline problem behaviours: Owner-directed aggression. J Feline Med Surg. 2019;21(3):245-255. doi:10.1177/1098612X19831206
- Ramos D, Mills DS. Human directed aggression in Brazilian domestic cats: owner reported prevalence, contexts and risk factors. J Feline Med Surg. 2009;11(10):835-841. doi:10.1016/j.jfms.2009.04.006
- Coltherd JC, Bednall R, Bakke AM, et al. Healthy cats tolerate long-term daily feeding of Cannabidiol. Front Vet Sci. 2024;10:1324622. doi:10.3389/fvets.2023.1324622

監修:茂木 千恵 先生(獣医行動学/日本アニマルCBD協会 学術顧問)
獣医行動学を専門とし、日本アニマルCBD協会の学術顧問を務める。犬猫のQOL・行動診療の観点から、本記事の疾患・行動・CBD臨床パートを監修。



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