テルペンとは、イソプレン単位がつながった植物由来の炭化水素の総称
テルペンとは、炭素5個のイソプレン単位が鎖状や環状につながってできる炭化水素の総称で、植物の香りや色を生み出す成分です。
学術誌Moleculesに掲載された大麻テルペンの総説(Sommanoら、2020年)は、テルペンを「小さなイソプレン単位が互いに結合して鎖を形成した炭化水素」と定義し、酸素を含むものをテルペノイドと区別しています[1]。柑橘の皮の香り(リモネン)、松の香り(ピネン)、ラベンダーの香り(リナロール)、黒コショウの香り(β-カリオフィレン)は、いずれもテルペンまたはテルペノイドです。
植物が作るテルペンは、昆虫を引き寄せたり遠ざけたり、病原体から身を守ったりする役割を持つと考えられています。ヒトは香料、食品添加物、化粧品、医薬品の原料として古くから利用してきました。日本の食品衛生法では、リナロール、ゲラニオール、シトラール、テルピネオールなどのテルペン類と、「テルペン系炭化水素類」が香料として指定添加物に収載されています[2]。
テルペンはイソプレン単位の数で4つに分類される
テルペンは炭素数によって、モノテルペン(炭素10)、セスキテルペン(炭素15)、ジテルペン(炭素20)、トリテルペン(炭素30)に分類され、植物の香り成分の大半はモノテルペンとセスキテルペンです。
| 分類 | 炭素数(イソプレン単位) | 代表例 | 主な含有植物 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| モノテルペン | C10(2単位) | リモネン、ミルセン、α-ピネン、リナロール、テルピノレン | 柑橘、ホップ、松、ラベンダー | 揮発性が高く、香りの主体 |
| セスキテルペン | C15(3単位) | β-カリオフィレン、フムレン、ファルネセン | 黒コショウ、クローブ、ホップ | 揮発性はモノテルペンより低い |
| ジテルペン | C20(4単位) | — | — | 揮発しにくく、香り成分としての寄与は小さい |
| トリテルペン | C30(6単位) | — | — | 揮発しにくく、香り成分としての寄与は小さい |
分類と炭素数はSommanoら(2020年)の記載によります[1]。代表例の含有植物は同総説およびRusso(2011年)の記載をもとにしています[1, 3]。
大麻草には200種以上のテルペンがあり、主成分は6〜7種類に絞られる
大麻草の揮発成分として200種以上が報告されており、そのうち58種のモノテルペンと38種のセスキテルペンが同定されていますが、量として主要なものはリモネン、β-ミルセン、α-ピネン、リナロール、β-カリオフィレンなど数種類です。
Sommanoら(2020年)は、大麻の主要なモノテルペンとしてリモネン、β-ミルセン、α-ピネン、リナロール(微量のα-テルピノレン、trans-オシメン)、主要なセスキテルペンとしてE-カリオフィレン、カリオフィレンオキシド、E-β-ファルネセンを挙げ、β-カリオフィレンは大麻植物と抽出物で最も多いセスキテルペノイドだと記しています[1]。品種は主要テルペンの構成によって、β-ミルセン型、α/β-ピネン型、β-カリオフィレン+リモネン型、β-カリオフィレン型、テルピノレン型の5群に分けられます[1]。
Russo(2011年)によると、大麻のテルペノイドの収量はほとんどの分析で1%未満ですが、トリコーム(腺毛)内容物の10%を占めることがあり、0.05%を超える濃度のものが薬理学的に関心の対象になるとされています[3]。
主要テルペンの香りと研究で報告されている性質
| テルペン | 香り | 他の含有植物 | 研究で報告されている性質 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| リモネン | 柑橘 | 柑橘類 | 自然界で2番目に広く分布するテルペノイド | Russo 2011 |
| β-ミルセン | 土・ホップ様 | ホップ | ドイツでホップ製剤の一部として鎮静目的に用いられてきた | Russo 2011 |
| リナロール | 花・ラベンダー | ラベンダー、バジル | 抗けいれん作用、抗グルタミン酸作用が報告されている | Russo 2011 |
| β-カリオフィレン | スパイス・黒コショウ | 黒コショウ | CB2受容体に選択的に結合する「食事性カンナビノイド」 | Gertsch 2008 |
| α-ピネン | 松 | 松 | 試験管内でGABAA受容体の応答を約49〜57%増強。CB1/CB2への結合親和性はみられない | Weston-Green 2021 |
| テルピノレン | 木・柑橘 | — | 大麻の品種分類(ケモタイプ)の指標の一つ | Sommano 2020 |
β-カリオフィレンはCB2受容体に結合する唯一の「食事性カンナビノイド」
テルペンの中でβ-カリオフィレンは、エンドカンナビノイドシステムのCB2受容体に直接結合することが示された唯一の食事由来成分で、CBD製品との関係を考える上で重要です。
Gertschら(2008年、米国科学アカデミー紀要)は、(E)-β-カリオフィレンがCB2受容体に選択的に結合し(Ki=155±4 nM)、機能的なCB2アゴニストであること、経口5mg/kgで野生型マウスのカラギーナン誘発炎症反応を強く抑制したがCB2受容体を欠くマウスでは抑制しなかったことを報告しています[4]。Russo(2011年)はこれを「大麻属以外で初めて証明されたフィトカンナビノイド」と位置づけています[3]。
一方、α-ピネンとβ-ピネンはCB1・CB2受容体への結合親和性がみられず(試験管内)、作用があるとすればGABAA受容体など別の経路によると考えられています[5]。テルペンの作用機序は成分ごとに異なり、「テルペン全体がカンナビノイド受容体に作用する」とはいえません。
エンタラージュ効果は仮説であり、受容体レベルでは反証もある
テルペンがカンナビノイドの作用を高めるという「エンタラージュ効果」は、現時点では仮説の段階にあり、CB1・CB2受容体レベルでは否定的な実験結果も報告されています。
「エンタラージュ効果」という語は、Ben-Shabatら(1998年)が、内因性カンナビノイドである2-AGの活性を、それ自体は不活性な内因性脂質が高める現象を指して用いたのが初出です[6]。この論文は植物テルペンを扱ったものではありません。Russo(2011年)は、大麻のテルペノイドがカンナビノイドと相乗的に働く可能性を総説として提示しました[3]。
これに対し、Santiagoら(2019年)は、α-ピネン、β-ピネン、β-カリオフィレン、リナロール、リモネン、β-ミルセン(最大30〜100 μM)がヒトCB1・CB2受容体を発現する細胞の膜電位を変化させず、単独でも組み合わせでもΔ9-THC(10 μM)の作用を変化させなかったと報告しています[7]。受容体への直接作用という意味でのエンタラージュ効果は、この実験では確認されていません。
したがって、テルペンを含む製品について「相乗効果がある」と断定することはできません。本記事では、テルペンは香りと風味を決める成分であり、個々の成分に固有の薬理学的研究があるという範囲で説明しています。
テルペンの安全性:香料として長い使用歴があるが、濃度と酸化に注意する
テルペンは食品の香料や化粧品の成分として広く使われていますが、高濃度での使用や酸化した状態では皮膚への刺激やアレルギーの原因になることがあります。
日本では、リナロール、ゲラニオール、シトラール、テルピネオールなどのテルペン類と「テルペン系炭化水素類」が食品衛生法施行規則別表第1の指定添加物(用途:香料)に収載されています[2]。化粧品ではリナロールが表示名称として登録され、配合目的は香料とされています[8]。EUでは化粧品のアレルゲン表示義務の対象にリナロールやリモネンが含まれており、洗い流さない製品で0.001%、洗い流す製品で0.01%を超える場合に表示が求められます[9]。
テルペンは空気や光で酸化しやすく、酸化した状態では皮膚感作の原因になりうるとされています。製品は遮光容器で保管し、開封後は早めに使い切ることが安全上の基本です。経口摂取する製品については、食品としての規格と原材料の表示を確認してください。
原料として確認する項目
テルペンを原料として扱う場合、確認する項目は以下のとおりです。
- 由来:植物からの抽出か、合成か。合成テルペンも化学的には同一物質ですが、原料表示が異なります。
- 組成分析:主要テルペンの含有率(%)と、残留溶媒、重金属の分析結果。
- 酸化指標:製造日、保管条件、酸化物の有無。
- 法規:食品用途なら指定添加物の範囲、化粧品用途なら表示名称と配合量。
アストラサナ・ジャパンは、原料事業として植物由来テルペンを取り扱っています。詳細は植物由来テルペンの原料ページを参照してください。
よくある質問(FAQ)
テルペンとテルペノイドは何が違いますか
Sommanoら(2020年)は、テルペンをイソプレン単位からなる炭化水素、テルペノイドを酸素を含むテルペンと区別しています[1]。リナロール(アルコール)やカリオフィレンオキシド(酸化物)はテルペノイドに当たります。日常的には両者をまとめて「テルペン」と呼ぶことが多くあります。
テルペンは体に吸収されますか
リナロールの総説(Mączkaら、2022年)によると、ラベンダー油200 μLを経口摂取した場合、リナロールは摂取後およそ10〜15分で血中に現れ、30分で最高濃度に達したと報告されています。吸入でも45分の曝露で25分後に血中に現れました[10]。成分ごとに吸収の経路と速度は異なります。
テルペンはCBD製品に必要な成分ですか
テルペンはCBD製品の香りと風味を決める成分です。カンナビノイドとの相乗効果(エンタラージュ効果)は仮説であり、受容体レベルでは否定的な実験結果もあります[7]。「必要」かどうかは製品設計の目的によります。
テルペンに副作用はありますか
高濃度や酸化したテルペンは皮膚の刺激やアレルギーの原因になることがあり、EUではリナロールやリモネンが化粧品のアレルゲン表示の対象です[9]。食品香料としての使用量では安全性が評価されていますが、体質によってはアレルギー反応が出ることがあります。
日本でテルペンを含む製品は規制されていますか
テルペン自体は大麻取締法や麻薬及び向精神薬取締法の規制対象に含まれず、食品衛生法上は香料として指定添加物に収載されています[2]。一方、大麻草由来の製品に含まれるΔ9-THCには残留限度値が定められており、CBD製品の規制は別途確認が必要です。規制や基準は変更されることがあるため、最新情報を確認してください。
まとめ
- テルペンはイソプレン単位からなる植物の香り成分で、炭素数によりモノテルペン・セスキテルペンなどに分類されます。
- 大麻草では200種以上が報告され、主成分はリモネン、β-ミルセン、α-ピネン、リナロール、β-カリオフィレンなどです。
- β-カリオフィレンはCB2受容体に結合する唯一の食事性カンナビノイドです。エンタラージュ効果は仮説であり、受容体レベルの反証があります。
- 食品香料・化粧品成分として使用歴は長いものの、濃度と酸化に注意し、原料は組成分析と法規で確認します。
あわせて読みたい
- CBDは睡眠に効果がある?最新研究でわかった科学的根拠と正しい使い方
- ベンゾジアゼピン依存症にCBDは効果がある?断薬・減薬への可能性を医師が解説【2023年最新研究】
- 退役軍人の睡眠障害にCBG25-50mgが与える効果:最新臨床試験結果
参考文献・出典
- Sommano SR, Chittasupho C, Ruksiriwanich W, Jantrawut P. The Cannabis Terpenes. Molecules. 2020;25(24):5792. https://doi.org/10.3390/molecules25245792
- 公益財団法人日本食品化学研究振興財団「指定添加物リスト(食品衛生法施行規則別表第1)」. https://www.ffcr.or.jp/tenka/list/post-11.html
- Russo EB. Taming THC: potential cannabis synergy and phytocannabinoid-terpenoid entourage effects. British Journal of Pharmacology. 2011;163(7):1344-1364. https://doi.org/10.1111/j.1476-5381.2011.01238.x
- Gertsch J, Leonti M, Raduner S, et al. Beta-caryophyllene is a dietary cannabinoid. Proceedings of the National Academy of Sciences. 2008;105(26):9099-9104. https://doi.org/10.1073/pnas.0803601105
- Weston-Green K, Clunas H, Jimenez Naranjo C. A Review of the Potential Use of Pinene and Linalool as Terpene-Based Medicines for Brain Health. Frontiers in Psychiatry. 2021;12:583211. https://doi.org/10.3389/fpsyt.2021.583211
- Ben-Shabat S, Fride E, Sheskin T, et al. An entourage effect: inactive endogenous fatty acid glycerol esters enhance 2-arachidonoyl-glycerol cannabinoid activity. European Journal of Pharmacology. 1998;353(1):23-31. https://doi.org/10.1016/S0014-2999(98)00392-6
- Santiago M, Sachdev S, Arnold JC, McGregor IS, Connor M. Absence of Entourage: Terpenoids Commonly Found in Cannabis sativa Do Not Modulate the Functional Activity of Δ9-THC at Human CB1 and CB2 Receptors. Cannabis and Cannabinoid Research. 2019;4(3):165-176. https://doi.org/10.1089/can.2019.0016
- Cosmetic-Info.jp 化粧品表示名称「リナロール」. https://www.cosmetic-info.jp/jcln/detail.php?id=2865
- Commission Regulation (EU) 2023/1545 of 26 July 2023 amending Regulation (EC) No 1223/2009 as regards labelling of fragrance allergens in cosmetic products. https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/1545/oj
- Mączka W, Duda-Madej A, Grabarczyk M, Wińska K. Natural Compounds in the Battle against Microorganisms—Linalool. Molecules. 2022;27(20):6928. https://doi.org/10.3390/molecules27206928
この記事は成分に関する一般的な情報であり、特定製品の効果を示すものではありません。製品の使用については医師・薬剤師に相談してください。


コメント