✍️ 本記事は、アストラサナ・ジャパンのKOL(Key Opinion Leader)である 正高佑志医師 の執筆に基づいて作成されています。
CBDや大麻医療に関する最新の科学的エビデンスをわかりやすくお届けすることを目的としています。
なお、本記事の内容は特定の効果効能を保証するものではなく、診断・治療・予防を目的としたものではありません。
アルコール使用障害って?

アルコール使用障害(Alcohol Use Disorder, AUD)は、若い世代にとって深刻な問題です。
米国では18歳までに約15%が診断基準を満たすとされ、日本でも大学生の過度な飲酒や飲酒事故がニュースになることがあります。
従来は認知行動療法や家族療法など心理的アプローチが中心ですが、十分な効果が得られないケースもあり、新しい治療法への期待が高まっています。
CBDへの注目
そこで注目を集めているのが 大麻草由来のカンナビジオール(CBD) です。
CBDは陶酔作用がなく安全性が高いとされ、抗不安作用や抗炎症作用などの研究が進んでいます。動物実験ではアルコール摂取の抑制や神経保護の可能性が報告されてきましたが、人間、特に若者を対象とした臨床データはほとんどありませんでした。
今回ご紹介するのは、米国サウスカロライナ医科大学で行われた 世界初の大規模臨床試験 です。若者のAUDにCBDがどのように働くのかを探る試みで、学術的にも大きな注目を集めています。
試験の内容

対象者と試験デザイン
対象となったのは 17〜22歳のAUD患者36名。
研究は以下のように設計されました。
項目 | 内容 |
---|---|
投与内容 | CBD 600mg(Epidiolex製剤)またはプラセボ(ゴマ油+イチゴ香料) |
試験方式 | クロスオーバー方式(両方を体験) |
間隔 | 18日以上 |
投与前処置 | 高脂肪スナックを摂取してCBD吸収を高める |
検査タイミング | 投与2〜3時間後(血中濃度ピーク時) |
評価項目
評価されたのは、以下の4つの項目です。
- 脳内神経化学物質:グルタミン酸・GABAの濃度
- 脳反応:アルコール画像を見たときの反応(fMRI)
- 心理生理反応:アルコールの匂いへの反応(心拍や欲求の変化)
- 飲酒行動:投与後7日間の飲酒量(自己報告)
安全性もあわせてチェックされました。
なぜ「一度きりの投与」なのか?

「治療なのに一度きり?」と不思議に思われるかもしれません。
理由は主に次の4つです。
1. 安全性の確認
若者AUDにCBDを投与する初めての試験だったため、まずは短期間で安全かどうかを確認。
2. 急性効果の探索
過去の研究で単回投与でも脳内物質が変化した例があり、それがAUDでも見られるかを検証。
3. スクリーニング試験としての位置づけ
本格的な治療効果の証明ではなく、「CBDに可能性があるかどうか」を探る段階。
4. 倫理的配慮
未成年を含む若者に長期投与する前に、まずは単回での影響を調べる必要があった。
結果はどうだった?

主要な結果
評価項目 | 結果 |
---|---|
脳内物質 | CBDによる有意な変化なし |
脳反応 | アルコール画像への反応に差なし |
心理生理反応 | アルコールの匂いで飲酒欲求は高まったが、CBDの抑制効果はなし |
飲酒行動 | 7日間の飲酒量に差なし |
安全性 | 副作用報告なし、安全性は良好 |
研究から見えたこと

一見すると「効果なし」とも思えますが、この試験には大きな意義がありました。
単回投与では効果を確認できない
AUDは慢性的な疾患であり、CBDの本当の効果を知るには長期投与の研究が必要。
刺激条件の工夫が必要
今回のアルコール画像や匂い刺激は、若者にとって十分に強い欲求を引き出せなかった可能性がある。
血中濃度の個人差
CBDの吸収率は人によって差が大きいため、今後は血中濃度を測定する必要がある。
今後の研究への示唆
課題 | 今後の方向性 |
---|---|
投与期間 | 長期投与試験(数週間〜数ヶ月) |
投与量 | 用量反応関係の検証 |
刺激条件 | より強い欲求を引き出す実験デザイン |
バイオマーカー | 血中濃度の測定と効果の相関分析 |
まとめ
この研究が示したのは、CBDは若者のAUDに対して「即効性のある治療薬」にはならないということです。
しかし、これは決してCBDの可能性を否定するものではありません。むしろ「慢性的な投与でこそ効果が期待できるのではないか」という方向性を明確にした成果といえます。
重要なポイント
さらに、安全性が確認されたことは非常に重要なステップです。
今後、長期投与試験や投与量の調整が進むことで、CBDが若者のアルコール問題に役立つ日が来るかもしれません。
よくある質問
アルコール使用障害(AUD)とは何ですか?
アルコール使用障害(AUD)は、アルコールの摂取をコントロールできず、健康や社会生活に悪影響を及ぼす状態です。米国では18歳までに約15%が診断基準を満たすとされ、若者にとって深刻な問題となっています。
主な症状
- 飲酒量や飲酒時間をコントロールできない
- 飲酒をやめたいと思ってもやめられない
- 飲酒が学業や仕事に悪影響を及ぼす
- 飲酒によって人間関係が悪化する
CBDはアルコール使用障害に効果がありますか?
今回の研究では、単回投与では明確な効果は確認されませんでした。
今後の可能性
- 長期投与での効果検証が必要
- 投与量の最適化が重要
- より強い刺激条件での再検証が求められる
この研究で使用されたCBD製剤は何ですか?
研究で使用されたのは Epidiolex(エピディオレックス) という医薬品グレードのCBD製剤です。
項目 | 内容 |
---|---|
製剤名 | Epidiolex |
用量 | 600mg(単回投与) |
投与方法 | 経口投与 |
承認状況 | FDA承認(てんかん治療薬) |
この製剤は、品質と純度が厳密に管理されており、臨床試験に適した高品質なCBDです。
CBDは若者が使用しても安全ですか?
今回の研究では、600mgの単回投与で副作用は報告されませんでした。
ただし、以下の点に注意が必要です。
注意点
- 医薬品グレードのCBD(Epidiolex)を使用
- 医師の監督下で実施
- 長期使用の安全性は未確認
- 日本では医薬品として未承認
一般的な健康食品としてのCBD製品とは異なるため、若者が自己判断で使用することは推奨されません。
日本でもこのような治療は受けられますか?
現在、日本ではCBDをアルコール使用障害の治療として使用することは認められていません。
日本の現状
- CBDは健康食品・化粧品としてのみ流通
- 医薬品としての承認なし
- 治療目的での使用は不可
アルコール使用障害の治療を希望する場合は、精神科や専門クリニックで認知行動療法などの標準的な治療を受けることをおすすめします。
今後どのような研究が必要ですか?
CBDのアルコール使用障害への効果を確認するには、以下の研究が必要です。
今後の研究課題
課題 | 内容 |
---|---|
長期投与試験 | 数週間〜数ヶ月にわたる投与効果の検証 |
用量最適化 | 効果的な投与量の特定 |
バイオマーカー測定 | 血中CBD濃度と効果の相関分析 |
刺激条件の改善 | より強い飲酒欲求を引き出す実験デザイン |
対象者の拡大 | より多様な年齢層・重症度での検証 |
これらの研究が進むことで、CBDの真の可能性が明らかになると期待されています。
CBDとアルコールを同時に摂取しても大丈夫ですか?
CBDとアルコールの同時摂取は推奨されません。
両者の相互作用については十分な研究がなく、以下のリスクが懸念されます。
懸念されるリスク
- 鎮静作用の増強
- 判断力・運動能力の低下
- 予測不可能な副作用
アルコールとCBDを併用する場合は、必ず医師に相談してください。
出典
- Colizzi M, Hermann D, et al. The acute effects of cannabidiol on young people with alcohol use disorder: A randomized, double-blind, placebo-controlled crossover trial. Am J Psychiatry. 2024;181(12):1031-1042. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40500407/
免責事項
本記事は、学術研究の結果を一般向けにわかりやすく要約した情報提供です。疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。
アルコール使用障害やその他の健康問題でお悩みの場合は、必ず医師・専門家にご相談ください。
CBDの使用については、日本の法規制を遵守し、信頼できる製品を選ぶことが重要です。
この記事の監修者

正高佑志 医師
アストラサナ・ジャパン KOL(Key Opinion Leader)
1985年生まれ。医師。熊本大学医学部医学科卒。一般社団法人GREEN ZONE JAPAN代表理事&臨床カンナビノイド学会副理事長として、大麻草の安全性や有用性に関する啓発活動に従事。著書『お医者さんがする大麻とCBDの話』など。
専門分野:カンナビノイド医療、精神医学、依存症治療
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