✍️ 本記事は、獣医行動学の観点から茂木千恵先生(日本アニマルCBD協会 学術顧問)に監修いただきました。特定の商品の効果を保証するものではありません。ご使用の判断は、かかりつけの獣医師にご相談ください。
犬のアトピー性皮膚炎にCBDは使えるのか:現時点の答え
犬のアトピー性皮膚炎とは、痒み・炎症・皮膚バリアの乱れが慢性的に繰り返される皮膚疾患です。CBDはこの治療の標準にはなりません。研究段階の補助的な選択肢として検討されています。
飼い主から、次のような声を聞くことがあります。「薬を組み合わせても痒みが残る」「掻き壊してまた炎症になる」「ストレスがかかると悪化を繰り返す」。犬のアトピー性皮膚炎は、炎症・感染・免疫・皮膚バリア・行動やストレスが複雑に絡み合う領域です。従来の治療を組み合わせてもなお痒みが残る症例があるなかで、皮膚のエンドカンナビノイドシステム(ECS)への補助的な介入として、CBDが研究段階で注目されています。この記事では、そのしくみと、用量・安全性、まれな重篤皮膚有害事象までを整理します。
この記事でわかること
- 犬のアトピー性皮膚炎の現在の治療と、残りやすい課題
- 皮膚のECSと炎症・掻痒の関係(研究段階の知見)
- 掻痒軽減を報告した研究と、その限界
- まれに報告される重篤な皮膚有害事象と、必要なモニタリング
犬のアトピー治療は、多面的でも痒みが残ることがある

犬のアトピー性皮膚炎の治療は、炎症・痒み・感染・皮膚バリアを同時に扱う多面的な設計が前提です。近年の国際ガイドラインは、ステロイドの長期使用に依存しない方向を打ち出しています。
現在の治療は、複数の選択肢を症例に応じて組み合わせます。以下は代表的な6系統です(協会メルマガ第5号)。
- シクロスポリン
- オクラシチニブ
- ロキベトマブ(抗IL-31抗体)
- 感染制御(ブドウ球菌・マラセチアへの対応)
- 皮膚バリアケア(保湿、必須脂肪酸など)
- プロバイオティクス・プレバイオティクス
これらを併用してもなお、痒みが残って掻き壊す悪循環を断ち切れない症例や、飼育環境のストレスで悪化を繰り返す症例が現実に存在します。痒みが続くと、掻痒行動、情動ストレス、睡眠の乱れが連鎖し、治療への反応性が下がることが報告されています(協会メルマガ第5号)。この残された課題に対して、従来の薬とは異なる経路への補助的なアプローチが検討されています。
皮膚にはECSがあり、炎症の調節に関わると報告されている

皮膚のECS(エンドカンナビノイドシステム)とは、皮膚の恒常性や炎症反応の調節に関わるとされる生体調節系です。犬・猫・馬を含む複数の動物種で、皮膚組織にその構成要素が確認されています。
犬では、角化細胞やアトピー性皮膚炎の病変近傍に見られる免疫細胞で、カンナビノイド受容体や関連分子の発現が報告されています。また、アトピー性皮膚炎の病変では内因性カンナビノイドの量が健常皮膚と異なることが報告されています。これらの知見から、皮膚の恒常性維持や炎症反応にECSが関与することが示唆されています(協会メルマガ第2号)。犬の角化細胞で報告されている主なカンナビノイド受容体・関連標的には、以下の7つがあります。
| 分類 | 受容体・関連標的 | 犬皮膚での主な報告 |
|---|---|---|
| 古典的カンナビノイド受容体 | CB1、CB2 | 健常・AD皮膚の角化細胞など。CB2はAD病変の一部炎症細胞にも確認 |
| カンナビノイド関連TRPチャネル | TRPV1、TRPA1 | 角化細胞、AD病変の一部炎症細胞 |
| その他のカンナビノイド関連標的 | GPR55、PPARα、5-HT1A | 犬の角化細胞で免疫反応性を確認。GPR55はAD病変の一部炎症細胞でも報告 |
出典:協会メルマガ第2号(茂木千恵 執筆)。皮膚のECSは、炎症や掻痒が生じた際にそれを調節しようとする系として働く可能性が報告されています。ただし、犬の皮膚疾患において臨床的にどこまで作用するかについては、確実性の高い結論が十分に揃った段階にはありません。
受容体が増えるのは「悪化」か「防御」か

アトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患では、CB2などの受容体の発現が健常時より亢進していることが、犬モデルやヒト研究で報告されています。これが炎症を悪化させている証拠は、現時点では示されていません。
受容体の発現が増えていると、「ECSが炎症を悪化させているのか」という疑問が生じます。現時点の獣医学領域の知見では、受容体の活性化が皮膚疾患を悪化させるという直接的な証拠は示されていません。多くの研究者は、炎症や掻痒が生じた際に生体がそれを鎮静・調節しようとする内因性の防御反応として、受容体が増えている可能性が高いと解釈しています。犬モデルやin vitro(試験管内)の研究では、CB2受容体作動薬やエンドカンナビノイドの増強が、掻痒や炎症反応を抑制しうる可能性が報告されています(協会メルマガ第2号)。犬のアトピー皮膚でCB1・CB2の発現亢進を示した一次研究として、Campora et al. 2012が報告されています。
掻痒軽減の報告はあるが、いずれも限定的なエビデンス

犬のアトピー性皮膚炎を対象とした臨床研究では、CBDまたはCBD/CBDAを含む製剤によって掻痒が軽減したとする報告があります。また、これまでの研究は症例数が少なく、使用された製剤の組成、投与量、投与期間、併用治療なども異なります。そのため、現時点では、CBDが犬のアトピー性皮膚炎に有効であると一括して結論づけられる段階ではありません。
犬のアトピー性皮膚炎に関連して報告されている主な臨床研究を以下に示します。
| 研究 | 対象 | 主な結果 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 二重盲検・プラセボ対照試験 | アトピー性皮膚炎の犬32例 | CBD/CBDAを補助的に投与した群では掻痒スコア(pVAS)の低下が認められた。一方、CADESI-04による皮膚病変には有意な改善を認めなかった。ベースラインからのpVAS変化量の群間差は14日目では有意だったが、28日目では統計学的有意差に達しなかった | Loewinger et al., 2022 |
| うしろ向きコホート研究 | アトピー性皮膚炎の犬8例 | THCを含まないCBD含有ヘンプオイルを既存治療に追加した症例で、掻痒の軽減が報告された。ただし対照群がなく、併用治療やCBD投与量も一定ではないため、有効性を単独で評価することはできない | Mogi et al., 2022 |
| フルスペクトラムCBD製剤群と対照群を比較 | アトピー性皮膚炎の犬14例 | 60日間の投与後、掻痒、CADESI-04、組織学的評価などについて、対照群と比較した有意な治療効果は確認されなかった | Mariga et al., 2023 |
| 症例報告 | 犬1例 | CBD含有ヘンプオイル投与開始後に皮膚・粘膜の重度の潰瘍性病変が発生し、薬剤性皮膚有害反応の可能性が高いと評価された。1例の報告であるため、この有害反応の発生頻度は不明である | Simpson et al., 2020 |
これらの研究から、CBDやCBD/CBDAを含む製剤が一部の犬で掻痒を軽減する可能性は示されています。しかし、皮膚病変の改善については一貫した結果が得られておらず、効果が確認されなかった比較試験もあります。
したがって現時点では、CBD関連製剤には犬のアトピー性皮膚炎に伴う掻痒を軽減する可能性を示す臨床的な知見はあるものの、効果の大きさや適切な製剤・用量、安全性については十分に確立されておらず、標準的な治療に代わるものとして評価できる段階にはありません。
まれに重篤な皮膚有害事象が報告されている:天然由来でも安全とは限らない

犬にCBD含有ヘンプオイル製品を投与した後、重篤な皮膚・粘膜病変を発症した症例が1例報告されています(Simpson et al. 2020)。報告されたのは、4歳のラブラドール・レトリーバーで、製品投与開始後5日以内に肉球の剥離と皮膚・粘膜の潰瘍性病変が認められました。病理所見と臨床像はStevens–Johnson syndromeに一致し、他に原因がないことから薬剤性皮膚有害反応が疑われました。製品の投与中止後に病変は完全に消失しています。ただし、これは1例の症例報告であり、有害反応の発生頻度や、CBDそのものが原因であったかどうかを判断することはできません。
一方、健康犬などを対象とした複数の反復投与試験では、試験されたCBD製剤・用量は概ね良好に忍容されています。このため、CBD関連製品が一般的に重篤な皮膚障害を引き起こすことを示す証拠があるわけではありません。ただし、これまでの臨床試験は比較的小規模であり、発生頻度の低い有害反応まで十分に評価できるものではありません。
また、犬へのCBD投与では血清ALP活性の上昇が複数の研究で報告されています。ALP上昇がそのまま肝障害を意味するわけではありませんが、特に長期間使用する場合や、肝疾患がある犬、肝臓で代謝される薬剤を併用している犬では、獣医師と相談しながら血液検査を行うことが望まれます。
臨床で導入を検討する場合は、次のような管理が挙げられます。
- 製剤品質の確認(成分・含有量・THC混入の有無)
- 開始後早期の皮膚状態のモニタリング(皮疹・粘膜病変の有無)
- 肝酵素のモニタリング(血液検査のタイミングを獣医師と設計する)
- 異常があれば速やかに投与を中止し、かかりつけの獣医師に相談する
CBDの位置づけ:標準治療を前提とした補助的な選択肢

現時点では、CBD関連製剤を犬のアトピー性皮膚炎の標準的な治療として使うことをおすすめできるだけの十分なデータはまだそろっていません。ただし、いくつかの研究では、従来の治療に加えてCBDやCBD/CBDAを使うことで、かゆみがやわらいだと報告されている例もあります。
一方で大切なのは、CBDはあくまで追加の選択肢の一つであり、これだけで治療が進むものではないという点です。アトピー性皮膚炎のような皮膚の病気では、まず本当にアトピーなのかを正しく診断し、細菌やカビの感染、ノミなどの寄生虫、食べ物が関係していないかといった他の原因をしっかり確認・治療することが基本になります。そのうえで、標準的な治療とどう組み合わせるかを考えることが重要です。
そのため現時点では、CBD関連製剤は犬のアトピー性皮膚炎の治療において、獣医師の管理のもとで補助的に使うことを検討する段階にあると考えるのが適切です。使用を考える場合は、必ずかかりつけの獣医師に相談してください。
よくある質問(FAQ)
犬のアトピー性皮膚炎はCBDで治りますか?
CBDは犬のアトピー性皮膚炎を治す薬ではありません。現時点で標準治療の代替にはならず、研究段階の補助的な選択肢と整理されています。少数例の研究で掻痒の軽減が報告されていますが、エビデンスは限定的で個体差もあります。使用の可否はかかりつけの獣医師に相談してください。
従来の治療を続けながらCBDを併用してもよいですか?
CBDは標準治療を前提とした補助的な位置づけで検討されています。自己判断で既存の薬を減らしたり置き換えたりせず、まず皮膚科的な診断と従来治療を整理することがすすめられます。併用の可否や順序は、基礎疾患や併用薬によって異なるため、獣医師と相談して決めてください。
CBDに皮膚の副作用はありますか?
頻度は非常にまれですが、CBD含有ヘンプオイル製品の投与後に、重篤な皮膚有害反応を呈した犬の症例が1例報告されています(Simpson et al. 2020, Veterinary Dermatology)。投与中止後に寛解しています。天然由来やサプリメントであっても安全とは限りません。開始後は皮膚状態と肝酵素のモニタリングを行い、異常があれば中止して受診してください。
ヒトの研究で効果があるなら、犬にも効きますか?
ヒトや他の動物種の知見を、犬のアトピー性皮膚炎へ直接あてはめることはできません。皮膚にECSが存在することは複数の動物種で報告されていますが、犬の皮膚疾患で臨床的にどこまで作用するかは、確実性の高い結論が十分に揃った段階にありません。犬を対象とした研究に基づいて判断する必要があります。
日本でCBDを犬に使うことは認められていますか?
この点は、本記事で扱う研究の有効性そのものとは別に、一般的な規制情報として整理します。
日本では、CBDを含む製品であっても、製品中のΔ9-THCが法令上の残留限度値を超える場合は規制対象となります。そのため、国内で使用する際は、THC残留限度値などの基準に適合した製品であることを確認する必要があります。
一方で、CBDを犬の疾患の治療・予防を目的とした動物用医薬品として使用することは、現時点では一般に承認された使い方ではありません。ペット用サプリメント等であっても、病気の治療・予防効果をうたう表示や説明を行う場合は、動物用医薬品等としての規制対象となる可能性があります。
CBDは治療薬の代わりになるものではありません。獣医師と相談しながら、体調・併用薬・血液検査・製品情報を確認したうえで、補助的に検討することが大切です。規制や基準は変更されることがあるため、最新情報を確認してください。
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監修:茂木 千恵 先生(獣医行動学/日本アニマルCBD協会 学術顧問)
獣医行動学を専門とし、日本アニマルCBD協会の学術顧問を務める。犬猫のQOL・行動診療の観点から、本記事の疾患・行動・CBD臨床パートを監修。


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